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1月26日 冬のファッション・後編

次はズボンである。

スタイリストはすぐさま店員を捕まえ、何やら話しこんでいる。このあたりの手際がいい。とても真似できない。僕は途中までうんうんと同調の色を示していたのだが、はやくも飽きてきたので、ルリカケスみたいな色した服に身をつつむマネキンに悩みを聞いてもらっていた。

話が恋の悩みに差しかかったところで、スタイリストは幾つかジーンズを持ってきた。

「え?ジーパン?俺、はかないんだけど」

「ダメなの?なんで?」

「いや、ダメじゃないけどさ……」

僕は10年ジーパンをはいていない。だって町中みんなジーパンで、なんかニッポンの制服みたくなっているではないか。付和雷同というか。それでなんとなく敬遠していたのだ。

しかもスタイリストはあろうことか傷のついたジーンズを持ってきた。

こういうのはお洒落な人間が、「俺はオシャレだぜオーラ」をおらおらおら!と出しまくりながら「ここ!この傷を見てくれえぇぇ!」と鼻息あらくしてはくものではないのか。

少なくとも自称お洒落じゃないと成り立たない気がする。だって傷は所詮傷じゃん。それをファッションと言うのはかなり明確な好意的思惟があるはずだ。

僕はこれを買うのが嫌だった。しかしスタイリストに無根拠のまま反対はできない。

それではスタイリストの意味がないからだ。買わないためには彼を納得させる必要がある。

そこで僕は

「落馬した時に傷ついたんじゃ、と勘繰られないかなあ?」

「ヘラジカの角にひっかけられたんじゃねえの、と後ろ指刺されまいか?」

「スー族に襲われて穴があいたと思われないだろうか?」

と猛反発した。こういうとき僕の発想力は跳ねまくる。次から次へといろんなセリフが出てくるのである。

しかしながらスタイリストと店員は異口同音にあっさり

「これくらいスタンダードです」

と譲らない。敵は手ごわい。

どうしてもスタンダードに見えない僕は屈せず、

「馬引きの刑に処された罪人みたいに思われたら嫌だな」

「日曜日の教会で懺悔しまくって、床で擦れて穴あいたんじゃないの。あの目つき、やっぱり罪人なんだわ。と避けられまいか?」

「酒場で言い合いになり、バーボンの瓶を……

と言いかけたところで二人は折れた。

次にはかされたジーンズは黒く染められて、光沢があるものだった。

少し色落ちしているところがどうにも腑に落ちないが、まあ、さっきは二人が折れたので今回は僕が譲るとしよう。

「裾どうですか。」という店員。

「お、お前、切らなくていい人なのか?」と驚くスタイリスト。

「いや、よくわからん。」と本当に何もわからない僕。

「ね、店員さん、このままでいけますよね」

「そうですね、切らなくてこのままいけますいけます」

明らかにやや長いが、僕は面倒くさがりだし、スタイリストも裾合わせの時間待ちが嫌だろうし、店員に至っては仕事が減ったと思っているのだろう。

「切らなくてもいけます」

と、三人ははじめて不真面目な意気投合をした。

ともあれこうして齢30を越えて僕の冬ファッションが確立されたのである。

そのジーパンはいつかのせようか。

【今月の走行距離 73km】

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