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九月十四日 白い悪魔

 衝撃的な出会いがあった。
 突然の出会いというわけではない。ある程度予期してはいた。これまでもよく噂を耳にしていたし、僕自身興味もあった。その意味で決してドラマチックではない。
「うわさ先行で、実のところたいしたことないんだろ」
というのが出会うまでの印象だった。たかをくくっていた。しかし予想をはるかに超えた出会いであった。
 バリウムとの出会いである。

 あれほどひどいものだとは思わなかった。
 そもそも診察をうけるかっこうがよくない。シャツもズボンも脱がされる。靴下とパンツだけなんてプロレスラー以外にみたことないのに、鏡のなかにみつけるとは思いもよらなかった。隣に控える白衣の二人は、
「検査ですから、私たちプロですから」
といった顔つきだが目の奥は笑いに満ちている。
 ここにヒエラルキーが形成されてしまう。衣服を身につけていない人間は服を着た人には抗えないらしい。姑と小姑に挟まれた貞淑な新妻のように肩身がせまく、元気をなくしてしまう。バリウムとの戦いが始まる前から形勢は圧倒的に悪い。
 次に登場するのは発泡剤である。粉ぐすりのような粉末を含み、ついで少量の水を流し込むと口内で炭酸水となるしくみだ。胃を膨らませるのに必要らしい。飲んだあとゲップをしてはいけないのだが、ゲップがノドボトケのあたりまできてから言うのである。ゲップを我慢するなんて人生初の経験である。生理現象の我慢ほどつらいものはそうあるまい。目を白黒させながら検査室に移動するといよいよ真打、バリウムを渡される。

 バリウムが苦手な人が多い原因は味に問題があると、僕はこれまでおもっていた。ならば対抗策は簡単、一気飲みである。ぐいと一口、ゲップをこらえながら流し込もうとした。
「お、ぜんぜんまずくないじゃん。それどころか甘みがあってわるくない味だ」
などと余裕を持ってかまえていた。が、次の瞬間、地獄にいた。バリウムが喉に入っていかないのである。粘度がものすごく高いのだ。たとえるなら「煮詰めて溶けはじめた餅」というのが一番近い感じだろうか。少なくとも「飲み物」の領域ではない。それを一気飲みしようとしたのだから、体は拒否するに決まっている。下からはゲップが蜘蛛の糸にしがみつく亡者のように狂おしく出口を求め、バリウムは喉を通らずやはり出口を求めている。この猛者どもに白旗をあげようとするも、技師が
「飲め、グーっと最後まで飲め」
と言うのである。意識が遠のくように感じられる。しかしパンツ一丁だから滑稽極まりない。
 あとは技師に言われるがままである。上向いてだの下向いてだの、検査マシンのうえでアクロバティックに舞うしかない。

 検査を終えて真っ先にやったことはもちろんゲップだ。特大のを三発やった。ズボンをはくことより優先せざるを得ないとうことが、バリウムの不条理さを物語っている。


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