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十月六日 雨中の凱歌

 ついにきた。帰宅時間のにわか雨だ。駅は帰れずたまりをつくっている人でざわついている。そうだろうそうだろう、お困りであろう。携帯電話で家族を呼ぶくらいしかできないだろう。携帯電話なんて科学の結晶を持っているのに、傘みたいな超原始的な道具をもっていないのだ。持たざる者よおどきなさい、人々をおしのけ最前列にいく。人だかりの中央だ。好位置を獲得。ここならみんなよく傘の奴をみることができるだろう。

さあいくぞ。いささかオーバーアクション気味に傘をひらいた。ばさっとマンガみたいな音が鳴るように魂こめてひらいた。

きまった、と思った。傘の奴は注目をあつめたはずだ。さあ、長いあいだ、ただじっとかばんの底でうずくまっていた屈辱を晴らすがいい。思う存分民衆の前で雨をあびるがいい。僕はさっそうと雨の中に歩を向けた。

すぐに失敗に気付いた。ひとびとの顔がみられないのだ。群集の最前列からさっさと歩きだしてしまったために傘が注目されているかの確認がとれない。ばさっ、とひらいた時点で周囲を確認すべきであった。もうこんなチャンスはやってこないかもしれない。振り向いて確認すべきか、それともこのまま歩み去ろうか、迷っているうちに駅は後方に遠ざかる。

それでも傘は楽しげに雨をはじいた。

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