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第五回 螢川

螢川

宮本輝/角川文庫

 宮本輝は生と死を扱うのが好きな作家でして、『螢川』もともすればクサくて豚も食わんような、そんなテーマを扱っています。

 中流以下の日常生活を正面から捉えることで死のにおいを漂わせる一方、瑣末な出来事に価値を見出し生の喜びとして紡ぐ。生と死の表裏をうまく描き出しています。さらに人物の持つ切実さへのリアリティと少年漫画のような王道(『青が散る』の椎名遼平のアレを思い出す)さでもって奇跡的なシーンを加え、イメージを昇華しています。

 正々堂々、といった感がありますね。

 芥川賞を受賞した本作ですが、どういう賞かご存知でしょうか。純文学だとかエンターテイメントだとか、そういったくくりがあるわけではありません。そんな垣根は意味を成さない。純文学こそ真実の文学だと豪語し、枠で囲って格好つけ褒めあうなんて、選民思想と自己顕示欲に駆られた無知な兵隊みたいで気持ち悪い。

 芥川賞をひとことで説明するなら新人賞ということになります。当然完成度は低い。だが面白い。その作家の個性が顕著にあらわれているんです。新人として認められるには既存の作家に似ていてはいけませんからね。オリジナルティあふれる意欲作が芥川賞には多いのです。

『螢川』は宮本輝の作品群の中でも傑作といっていいでしょう。

新人の頃に書いた作品にたいして高評価を与えてしまうことに作家本人は何と言うか知りませんが。

 主人公の少年竜夫をメインに据え要所で母の千代の視点も交えるストーリー展開。全体として暗い印象を受けます。話自体も、作品内の色彩も。しかし竜夫パートにはユーモアがある。竜夫は14歳で、学校はそれなりに楽しいだろうし何と言っても未来があります。暗さに徹しきれるもんじゃない。

 以下はクラスメイトの関根との会話における台詞の一部抜粋。狙ってやっているのかはわかりませんが妙に目を引く“……”の多さにどうしても作家の意図を感じてしまう。

「……いつ頃のことよ?」

「げっ、お前、それはませすぎじゃァ」

「……さわったがか?」

「……入れたがか?

「……かもしれんちゃ」

「……熱情的やのォ」

 好奇心に振り回されるようにして漏れ出たであろう反応が生々しくて笑えます。

 一方千代パートはひたすら暗い。しかしこの暗さは欠かせない。物語を重層的に語り、テーマを浮き彫りにしています。

 この作品の見所は何と言ってもクライマックスの螢です。見事というほかない描写力ですね。螢の使い方がうまい。それまで随所に期待感を持って配置されてきた螢やその光が最後見事に活きている。 

 螢の持つはかなさ、闇に揺らぐ光はそのまま生命の灯への喚喩であり、生死感を訴えています。しかもそれらを映像で感じることができるんです。

 また単体ではなく群れを書くことによって輪廻観を喚起させる。独りよがりにならず、歴史宗教観のもつ広がりがスパイスになっています。

 宗教画のような意図的に創り込まれた絢爛さと巧妙な予定調和があるとしても、無視してしまえるほど美しく、凄味のあるラストです。

 そうだ思い出した。高校一年のときの課題図書だったよ。なに考えてんだか。15歳で理解できるわけないだろ。小説の読み方なんて教わってないんだから。当時は苦痛でしたよ、この小説読むの。

★長門裕之と余貴美子にはこういう設定はよく似合うとおもう。

……ただ『螢川』もどうやら映像化済みらしい。次回は将来映像化されるであろう作品について書こうかな。予想の意味も込めて。次回は無理か。第七回で。

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