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第六回 蒲団

蒲団

田山花袋 

 自然主義の先駆け、ひいては私小説を確立させた作品だろう。確かに恥ずかしい。他人の不幸が蜜の味なら、他人の恥もまた甘い。しかし「お前も好きなんだろう」と言われてみてはなかなか嫌いとは言い切れないのじゃないか。

 素材に匂いをもってきたのが絶妙。

匂いが好きということ自体は変態的ではない。女性の石鹸やシャンプーの匂いが嫌いな男はいないはずだし、汗の匂いに焦がれる女もやはり常識的。

 しかし嗅覚というのは人間にとってマイナーな感覚。稀少性は時に罪悪感を生む。もちろん匂いが好きということは悪ではないが多少の抵抗感はあるだろう。皆が興味を持つ禁忌。殺人や自殺、強姦などに近い性質の、好き嫌いとは別次元の未知への興味。

 作者と思しき主人公の時雄は作家として世に認められた中年男。妻に女としての魅力を感じなくなり、道行く女に痴情の眼差しを向けている。しかし彼は実際に行動を起こしはしない。時雄は弟子の芳子と関係を持とうと思ってはみるが、妻子ある身、常識的な貞操感、世間体などさまざまなしがらみから決して行為にはいたらない。年中獣じみた発情があろうとも一線で踏みとどまるのである。ただ、どうしても葛藤は絶えない。その葛藤の解消手段が芳子の夜着の汚れの匂いを嗅ぐ、という禁忌的行為である。禁忌といっても許容範囲。好感の持てる健気な臆病者。これが時雄。匂いフェチではない。触れられぬならせめて……という常識的な代替である。

 ただ、この辺り、自分を落としきれぬのか、時代のせいなのか判断しかねるが、甘い。

「匂いを嗅ぎ続けて、引き出しの奥に夜着をそっとしまった」と結ぶほうが変態度アップでリアリティが増すと思うのだが。

★北村総一郎は変態役もこなせるとおもう。

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